前衆議院議員 大前 繁雄
事件のてん末
世間を騒がせた障害者の郵便制度悪用事件が、さる3月末の大阪高検の上告断念により、最終的な落着をみた。
この事件は、定期刊行物の発行人が障害者団体である場合、きわめて低料金となる障害者用第三種郵便制度を悪用したとして、平成21年大阪地検特捜部が、自称障害者団体「凛の会」(のちに「白山会」に改称)ほか関係者を摘発したものである。
ご存知の方も多いと思われるので詳細は省略させて頂くが、「凛の会」が厚労省発行の虚偽の障害者団体の証明書を使用。障害者団体の定期刊行物を装って、大手家電メーカーなどのダイレクトメール数千万通が違法に発送され、通常の第三種郵便の料金との差額数十億円を免れたとされる。
事件の焦点は、使用されたニセの証明書がどのようにして発行されたかであった。この点に関して証明書を実際に作成した厚労省障害保健福祉部の上村係長(当時、以下同じ)と、その発行権限を有していた上司の村木厚子課長(同)が逮捕、起訴されたのである。
不可解な一係長の単独犯罪
裁判の経過は、途中大阪地検特捜部の担当検事の証拠改ざんが発覚、事件は急展開し、結局、最終的にニセ証明書の発行は上村係長の単独犯罪、上司の村木さんは無罪となったのである。さらに、一審では有罪の判決が出ていた「凛の会」の発起人についても二審で無罪となり、冒頭記した3月末の大阪高検の上告断念で終結したのである。
しかし、この一連の経過でどうしても腑に落ちないのは、この上村係長の単独犯認定である。
上村係長は、当初上司の指示と自供していたのを、途中から自分の単独犯行と変更したのであるが、長年、役人世界と関わってきた私には、とうてい理解しがたい。通常、役人というのは外部の者に頼まれて不正を行う場合、金銭の授受(ワイロ)もしくは上司の指示や政治家などの圧力なしに、絶対やらないからである。上村係長は、年度末の多忙でパニック状態に陥ってやってしまったと供述しているが、常識的には全く信じられない。
村木さんのヒロイン化も疑問
それともう一つ、村木さんの『悲劇の主人公』化についても、私は疑問を持っている。 六年間の国会議員時代を通じて、私は障害者の福祉に格別力を入れて活動していたので、村木さんのことはよく知っている。大変聰明かつ有能な女性で、ご主人の村木太郎氏も同省の幹部であり、将来は厚労省初の女性次官との声もあっただけに、逮捕を聞いた時、大変残念に思った。
しかし、この事件で最終的に無罪となった村木さんのその後の行動は余り評価できない。検察批判の高まりの中で世論が同情的になり、村木さんを悲劇のヒロインに仕立て上げてしまったのはやむを得ないとしても、その中で本人も安住してしまっているのは、あまり村木さんらしくないと断ぜざるを得ないのである。
仮に百歩譲って上村係長の単独犯罪であったとしても、そのニセの証明書には村木さんの印鑑が押されていたのである。公務員の上司として、少なくとも監督不行届きのお詫びくらいあってしかるべきと思うのだが、村木さんがそのことについて謝罪されたということは、これまで寡聞にして知らない。
真の被害者は障害者団体
そして、この事件で忘れられてはならないのは、真の被害者が、日々少ない予算に悩みながら定期刊行物を発行してきた弱小の障害者団体であるということである。
日本チャリティープレート協会の会長で、全国の障害者団体定期刊行物協会の代表をつとめておられる春田文夫氏は、次のように語っておられる。
「この事件のお陰で痛くない腹を探られることになった障害者団体に対するダメージは想像以上に大きく、郵便事業会社による検査に余計な事務が増える等の苦情がやたらと来るようになった」(「チャリティープレート新聞」平成24年3月号)
誰が犯人かはともかくとして、この事件の責任はニセの証明書を発行した厚労省にある。その責を自覚し、新たなより良い制度創設にむけて、厚労省の最大限の尽力を期待したい。
「兵庫県肢体不自由児者父母の会連合会だより」
(平成24年4月発行)掲載
(平成24年4月発行)掲載

